地震防災フォーラム2014

巨大地震研究の役割と展望 〜地震の予知と制御,日本の災害対処能力〜

開催報告

 

主催 : 関西地震観測研究協議会(関震協)

 : (一社)日本建築構造技術者協会関西支部

協賛 : (公社)土木学会関西支部

(公社)日本地震学会

(公社)地盤工学会関西支部

(一社)日本建築学会近畿支部

(一社)日本地震工学会

(一社)建設コンサルタンツ協会近畿支部

関西ライフライン研究会

特定非営利活動法人 リアルタイム地震・防災情報利用協議会

日時 : 平成26年1月14日(火)13:30〜16:30

会場 : 建設交流館 グリーンホール(大阪市西区立売堀2−1−2)

参加者 : 69名

1.開会の挨拶  釜江克宏先生(京都大学原子炉実験所 教授,関西地震観測研究協議会 座長)

   今年,兵庫県南部地震から19年が経つが,東北地方太平洋沖地震を経験し,南海トラフの巨大地震に対する内閣府の想定の公表されるなど,関西地域では地震対策が重要となってきている.そんな中,関震協は23年目を迎え,南海トラフの地震を観測を目標に掲げ社会やへの貢献を目指していること,地震観測のリアルタイム化,緊急地震速報の配信,地震防災教育への協力など会員サービスの向上にも努めていることなど,関震協の取り組みを述べられた.最後に,熊澤先生,東原先生の講演の紹介をされ,開会の挨拶を締め括られた. (文責:山田)

 

2.「関西地震観測研究協議会2013年活動報告」  赤澤隆士(事務局

   2013年の総会等会議の開催状況,分科会活動と地震観測状況について報告があった.地震記録分科会,速報システム分科会,広報分科会の活動として,例年通り実施した活動と現在進行中の活動の報告があった.地震防災教育WGの活動として,出前授業・講演・講演会協力,教材(手作り地震計)の提供,Webサイトおよびコンテンツの提供について報告があった.平成25年4月13日に淡路島付近で発生した地震(Mj6.3)の地震を観測したことなどの報告があった. (文責:山田)

 

3.「地震予知はできる―制御もできる:その原理と方法を考える」  熊澤峰夫先生(東京大学・名古屋大学理学部 元教授)

 

  最初に,「理学」は,現時点では役に立たないが,将来不可避的に必要だと想定することの学だという見方で,地震予知のような難問題に対処する方法  論の説明があった.物事を理解するには,①対象の適切な観測の過程(O-ループと呼ぶ)と,②モデル(作業仮説)設定とその帰結を導く過程(M-ループ  と呼ぶ)の二つの結果を比較して,両者が整合的であるように,①と②の両者を逐次刷新してゆく.この操作を「dFLO」と呼ぶ.地震現象は自由度が極め  て大きい非線形系のカオス(弱カオス)なので,この操作で,事象までの時間の冪関数(指数関数ではなく)の程度で予測確度を逐次刷新向上させること  ができる.この意味で地震予知は実現可能である,われわれの課題は,この二つのループを的確に設計し適切に運用する理と技と術を確保することで  ある. O-ループの対象は,地下の構造とその物性の微小な時間変化(岩石の構造敏感性)である.その方法として,過去20年間開発をすすめてきた精  密制御定常信号システム(ACROSS)の技術の説明と従来の研究成果の説明があった.取得情報の質の向上に,その観測周波数帯を低周波数領域に  拡大する新技術開発の提案があった. M-Loopの基本的方法は,O-ループの観測データと波動場の計算結果を用いた地下構造の解析と解釈である.  従来は波動場計算に有限要素法を使う.これには要素寸法に依存するバイアスや異方性を扱う困難などがある.刷新案として,偏微分の波動方程式を  超関数演算とフーリエ変換を用いて代数方程式に変換する方法 (PANWAVE) の開発が紹介された.これは周波数領域のグリーン関数(伝達関数)を与え  るので,アクロスのデータと厳密に整合していて,地下構造と状態の逆解析に最適である. 将来的にはACROSSの送信所を全国に展開し,日本列島全  体をアクロス信号で常時満たすことで,日本列島全体を常時監視のもとにおける.その信号測定点群のある構造物や地域では,測定点間の実効的グリ  ーン関数のデータが誤差評価付きで得られる.そうすると,関西地域においては次の順序に物事が解明されるだろう. ① 特定構造物(建築物など)の振  動モードによる力学特性と構造 ② 地盤と地殻の精密な構造 ③ 深部低周波微動発生領域における構造敏感特性の時間変動 ④ 東-南海地震発生場  の構造と状態の推移 この刷新的な方法では,原理的に観測可能なすべての地下情報を含むので,地下構造のカラーホログラフィーの実現も期待できる  など,将来への発展性は大きい. ここで報告した新技術開発適用には,地震予測への手堅い超長期の基礎積み上げの途上に,目前の減災に必須の  高品質の役立つデータが出てしまうと言う宿命にある.講演後のインタービューでは,この研究は世界にやり方を教えてあげられる画期的なものだとの熱  のこもった発言があった.そうかもしれないが,もう一度時間をかけてお話を伺い,この壮大なプランの片棒を担ぐかどうか,勉強してみたいと考えた.                                                                            (文責:山田,加筆・修正:熊澤)

 

      

 

4.「南海トラフ地震―学説の展開と対処能力の涵養」  東原絋道先生(東京大学名誉教授,元防災科学技術研究所(神戸センター長))

   はじめに,東日本大震災のスケールの大きさや国力の限界が顕在化したことなどを鑑み,災害対処のプロセスはどうあるべきか問題提起があった.そのプロセスのうち社会インフラの早い復旧といったRecoveryの重要性・意義について言及された.その後,南海トラフ地震に関する被害の想定やこれまでの学説についてご説明された. 続いて,巨大地震への対処能力を論点として,日本海軍や秋山真之など歴史的な人物を取り上げ,独自の観点から問題点を抽出され,それを解決する糸口となる事象について解説された.中でも「臨機対応」「想定外」「リスク管理」「ロジスティックス」をキーワードに対処能力について力説された.臨機対応ではスマトラ地震発生後に米軍(空母)が当初の任務を素早く変更し被災地に向かったエピソードや,ロジスティックスは戦争で例えると戦略・戦術・戦務の3要素のうち最も基本となるものであり,災害対処を考えるうえで重要事項であることなど,巨大地震への対処能力について具体例を示しながら解説された.(文責:安田)

      

 

5.閉会の挨拶  向井洋一先生(神戸大学 准教授,広報分科会 主査)

   それぞれの講演内容について総括を述べられた後,次年度も引き続き開催する旨をお伝えし,最後に各講演者ならびに参加者への謝意を表されて本フォーラムの閉会とされた. (文責:安田)

 

文責:(株)ニュージェック 山田雅行,(株)奥村組 安田幸司

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