地震防災フォーラム'08

−文化遺産を地震から守る−

開催報告

 

主催 : 関西地震観測研究協議会(関震協)

協賛 : (社)土木学会関西支部

(社)日本地震学会

(社)地盤工学会関西支部

(社)日本建築学会近畿支部

日本地震工学会

(社)建設コンサルタンツ協会近畿支部

関西ライフライン研究会

(社)日本建築構造技術者協会関西支部

日時 : 平成21年1月15日(木)13:40〜16:35

会場 : 建設交流館 グリーンホール(大阪市西区立売堀2−1−2)

参加者 : 80名

              

1.開会の挨拶

堀家正則先生(大阪工業大学 工学部 教授,関西地震観測研究協議会 座長

関震協設立の経緯と目的について触れ,1995年1月17日の平成7年兵庫県南部地震から14年となるが,災害の記憶を風化させてはならず,毎年この時期に地震防災フォーラムを開催していると述べた.また,今回のテーマについて,従来とやや趣の異なる内容であるとし,土岐先生が追求されてきた課題であること,歴史ある関西地区には文化遺産が集中しており,これを如何に守ってゆくべきなのか,京都における具体的事例などを基に機運を高める契機となることを期待したいと述べた.

 

2.「関西地震観測研究協議会2008年活動報告」

赤澤隆士(事務局

会議ならびに分科会の活動状況,2008年度観測地震の概要,会員向けに行っている緊急地震速報について報告があった.また,観測システムについて,現在開発中のリアルタイム対応型収録装置は,2009年3月を目処に試験観測を行う予定であるとの報告がなされた.

       

 

3.「文化遺産防災の過去と現状」

土岐憲三先生(立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構 歴史都市防災研究センター 教授(センター長))

わが国の国宝建造物の約8割が活断層の集中する近畿地方に存在している事実と,最も警戒すべきは兵庫県南部地震で経験した同時多発火災であり,既存の防災施設は外部からの延焼を想定しておらず貯水量が十分でないなど,災害時に無力となる可能性が高いとの見解が示された.また,京都における文化財は焼失の歴史を繰り返しており,原因の大半は周辺市街化に伴う延焼であったこと,現状は直近100年程度の急速な市街化により,文化遺産の多くが可燃物の海に漂っている危機的な状況にあるとの説明がなされた.続いて,文化遺産防災の重要性について共通認識が徐々に広がりつつあり,官民学の連携・協力が生まれつつあること,具体的なプロジェクトも進行中であることが紹介された.講演の最後では,我々日本人について,社会基盤に文化財を含めるとの意識が希薄で,先人から受け継いだ貴重な文化遺産を後世に残す努力を怠っているのではないか,日本人たる我々の誇りである文化財の保護について,一人一人が気持ちを新たにすべきではないかとの問い掛けが示された.(以上,成田)

       

 

4.「文化遺産防災に関わる事例の紹介」

益田兼房先生(立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構 歴史都市防災研究センター 教授)

これまでに被災した日本の文化財建造物として4例の重要文化財を取り上げ,その被災と修復の状況について講演された.昭和20年(1945年)に空襲により焼失した根津神社は,彫刻などの装飾的な部分は当初の部材が使用できたため,文化財として復旧できたと解説された.旧太田家住宅は主屋棟と土間棟からなる分棟型農家で,失火により主屋棟をほぼ全焼したが,当初部材を用いた土間棟に近い部分の焼損程度が比較的軽く,この部材を使用して文化的価値が高いまま修復が行われたことを解説された.清水寺釈迦堂は昭和47年(1972年),豪雨に伴う崖崩れによって倒壊した.破損した木材を土中から救出,清掃し,当初部材をできるだけ再用するため継木矧木を行い,屋根も含めて江戸時代初めの姿に復原されたことを解説された.今年で14年目を迎えるが,神戸旧居留地十五番館は平成7年兵庫県南部地震によって全壊した.地盤補強や先震基礎構造等により構造上,大幅な補強を行っているものの,内外の意匠変更を最小限にすることにより,文化的価値を有したまま復旧されたことを解説された.このほか,ソウル南大門の火災事例,京都銀閣寺や千本釈迦堂にみられる木造建築の維持に関する考え方,仁和寺の防火装置,法隆寺金堂の復旧事例,庭園として文化財指定された金閣寺についても紹介された. これらの事例からみると,火災が木造文化財の価値を失わせる最も大きな原因のひとつであることが明らかであり,そして,復旧過程において,文化財の価値を担保している当初材など歴史的価値のある部材をどれだけ保存できるかが,文化財として存続できるかどうかを決定付ける大きな要素であることがうかがえる.文化遺産防災は,都市計画的観点から文化遺産のありようを問い直しているように思える.また,国内だけではなく,国際的知見にも立って,継承すべき文化遺産とは何なのかを考えていかなければならないと,締めくくられた.

    

 

5.閉会の挨拶

上林宏敏先生(大阪工業大学 工学部 准教授広報分科会 主査

関震協会員の多くが,土木・建築構造物の設計・施工に関連したハード的な職種であるため,今回のフォーラムでご講演いただいた「文化遺産の防災」といういわばソフト的な話題は非常に新鮮で,興味深く受け取られたのではないかと述べて,地震防災フォーラム'08を締めくくった.

 

 今回の文化遺産防災に関する講演を非常に興味深く,拝聴することができた.講演の中で,「1600年代の二条城が最も新しい世界遺産である」という言葉があり,非常に衝撃を受けた.筆者も,京都の文化遺産を後世に残したいし,伝えるべきであると考える.しかしながら,昨今,明治・大正・昭和期のいわば「古きよきもの」が遺産としての価値を与えられることが少ない感が否めない.千年前の遺産を護るとともに,千年先の遺産にも目を向けられるような,将来の文化遺産のありようを心待ちにしたい.(以上,山田)

文責 : 株式会社 奥村組 成田典嗣

株式会社 ニュージェック 山田雅行

 

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