地震防災フォーラム’05資料 (2006.1.13)より
弥栄観測点から盾津観測点への移設について
赤澤隆士(地盤研究財団;事務局)
岩田知孝(京大防災研;地震記録分科会主査)
1.はじめに
弥栄観測点では,平成6年4月の観測開始以来,平成7年兵庫県南部地震の強震記録をはじめとして多くの地震記録を収集してきたが,学校の校舎の建て替えに伴い,同校において観測を継続することができなくなったため,観測点を大阪府立盾津高等学校(観測点名:盾津)へ移設した.両観測点の位置を図1に示す.盾津は,弥栄の北約700mに位置している.両観測点の記録に現れる特性の違いを比較・検討することは重要であり,そのための最も有効な手段は同時記録をできるだけ多く収集することであることから,平成16年10月末の弥栄の撤去を待たずに,同年7月末に予備機として事務局で保管している地震計を盾津へ設置,同年8月1日より観測を開始した.表1に両観測点で同時記録が得られた地震のリストを,図2にその震央分布を示す.弥栄の地震計を撤去した同年10月27日までの約3ヶ月間に,紀伊半島南東沖で発生した一連の地震や平成16年新潟県中越地震を含む24地震の同時記録が得られた.本報告では,両観測点の地震計の設置方位の違いを推定すると共に,記録に現れる特性の違いについて検討する.
図1 弥栄と盾津の位置
図2 同時観測地震の震央分布
表1 同時観測地震一覧
2.設置方位
弥栄の水平2成分の記録を固定し,盾津の同記録を回転させた場合に相関が最大となるような回転角を求めることで,両者の設置方位の違いを検証する.検証にあたり,地震毎に時刻を揃えると共に,周期10〜20秒のバンド・パス・フィルターを通した波形を利用する.地震記録は,上述した周期帯域で十分なSN比を有する地震規模が大きな地震の中から選定し,その主要動部の相関を求める.両観測点は水平距離で約700m離れているが,ここで利用する波が表面波であると考えれば,例えば20秒の波で位相速度が3〜4km/sとすると波長は約80kmになるため,(最大1〜3%程度の位相差は有り得るが)2点は同様に震動していると考えて良い.表2に,検討に利用した地震と,上述した方法により得られた盾津の回転角(弥栄に対して盾津が時計回りに何度回転しているか)を示す.また,図3に,一例として地震番号2(2004年9月5日23時57分)の波形を示す.ここで,波形はフィルター処理している。また,盾津は求められた回転角に従って反時計回りに24.5度回転させている。回転角は,新潟県中越地震記録から得られた結果は他より若干大きいが,全体的な傾向から25度程度であると推定される.一方,盾津の設置方位は,太陽の南中時刻の影を利用した実測から,真北から時計回りに21度回転している(N21E)ことが分かっている.関震協の方位は,設置時に方位磁石によって磁北・真北の方向差を考慮して真北になるように設置しているが,この方位についてはプラスマイナス3度を目標としてきた.今回の検討から得られる弥栄の設置方位は,真北から反時計回りに約4度回転している(N4W)ことになるが,これは範囲内と考えている.
表2 推定された盾津の回転角
図3 地震番号2(2004年9月5日23時57分)の波形
3.フーリエ・スペクトル比
表1に示した各同時地震記録から得られるフーリエ・スペクトル比(盾津/弥栄)の平均と標準偏差を図4に示す.ここで,盾津の水平成分は,上述した回転角に関する検討を参考に,弥栄に揃えて25度反時計回りに回転させている.解析データ長は記録の先頭から327.68秒を利用し,それより短い記録には後ろにゼロを付けている.また,全地震で平均する前に,0.2HzのParzen Windowを利用して各スペクトルを平滑化している.図より,2.5〜10Hz付近において盾津が弥栄より大きい傾向にあることが分かる.盾津は倉庫の基礎上に設置しているとはいえ倉庫自体は比較的軽い材料で構成されているのに対し,弥栄は学校校舎内の1階床上に設置されていたことから,この違いには弥栄での入力損失による影響が少なからず含まれていると考えられる.
図4 フーリエ・スペクトル比(盾津/弥栄)の平均と標準偏差
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